音旅

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毒蛇から逃げ惑え-UNISON SQUARE GARDEN「Nihil Pip Viper」ディスクレビュー

 さぁ、彼らがまた動き出した。

 

 10月5日、UNISON SQUARE GARDENのライブ円盤「Spring Spring Spring」のフラゲ(最速店頭到着日)と同時にその音源が解禁となった新曲「Nihil Pip Viper」。今回はそのディスクレビューというわけである。

 


 

 今回の新曲はジャケット写真がメンバー3人と蛇…ということもあり「天国と地獄」「MIDNIGHT JUNGLE」「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」「Phantom Joke」などと並ぶ、“治安の悪い楽曲”というイメージを勝手に抱いていた。

蓋を開けてみれば…どうだろう。

 

 

 一言で言い表すならば、“『良い意味で裏切られた』という言葉が世界で1番似合う”と感じた。わたしは忘れていた、UNISON SQUARE GARDENはこういうバンドだということを。再び彼らの創り出す音楽の扉へと、引き戻されてしまった。

 

いつも通りのテンポの速いユニゾン節に加え、一聴では聞き取れない訳のわからない言葉たち、音自体は散らかっているのに楽器のまとまりがある矛盾点(※むしろそれが良い)…どれを取っても、今までにありそうでなかった1曲だ(詳しくは「Spring Spring Spring」付属のNihil Pip Viper制作ドキュメンタリー映像をご覧ください)。

わたしが「Nihil Pip Viper」というタイトルと3人が首に蛇を巻いているジャケ写からイメージしていたものとは真反対の音楽がCDから流れてきたので、再生した瞬間に「あれっ、CD間違えた?」と思ってしまったくらいである(ほんとです)

 

 

 ユニゾンの新曲が出る度に思うのだが、初めて聴いた時の「これはわたしの曲だ!」「言いたいことを全部言ってくれた!」という爽快感・共感性(彼らは共感を得ることを意識して楽曲制作をしていないとは思うが)は、通常運転のUNISON SQUARE GARDENとしてブレない部分であり、曲の展開が読めなくて振り回されるのもこのバンドならではないだろうか。今回ももちろんそれに当てはまった。

 

以前「Patrick Vegee」のディスクレビューでも似たようなことを書いたのだが、UNISON SQUARE GARDENの詞は田淵智也が歌うとキツくなるけれど、斎藤宏介が歌うと塩梅がちょうど良くなると個人的には感じている。

 

以下、過去記事(Patrick Vegeeディスクレビュー)より「摂食ビジランテ」の部分を引用。

 

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めんどくせえよ、忌々しい

白状です ちっとも食べられない

万人が煽るユートピアに期待なんかしてないから 今日は残します

 

 サビでここまで強いワードを入れられるのは、やはりUNISON SQUARE GARDENだからできることではないだろうか。“食べられない”とか“残します”というフレーズはやはりこのアルバムらしさを感じるし、斎藤宏介のあのボーカルの声があるからこそキツくなりすぎず、良い塩梅の加減が出来るんだと思う。

 

「オトノバ中間試験」でも、“死んじゃったらもったいない”というフレーズがあるけれど、これは少し攻撃性のある田淵の声で歌うんじゃなく、斎藤の透き通ったガラスのような声で歌うからこそ良さが出るんだと思う。これは憶測でしかないけど、田淵が歌うとバチバチになりすぎるんだよな…

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今回の「Nihil Pip Viper」ではあまり凶暴な歌詞は出てこないが、2番始めの早口でまくし立てるパートでは、斎藤がかなり苦戦していたんじゃないかと思われる(楽曲制作ドキュメンタリーを観てみるとそのことがよく分かる)。この意見は完全に私見だが、凶暴性のあるワードと同じく早口言葉も、田淵の力強い声で歌うと聞き取りに時間がかかると思われる。だが、斎藤の声で歌うとリスナーの耳にスッと入ってくるのだ。一聴では何を言っているか分からなくても、不思議と心の隙間に入ってきて「今のはなんだったんだ?」という印象だけを残して、音は帰っていく。斎藤宏介の歌声にはそのような魅力があると、わたしは考えている。

 

鈴木貴雄のドラムに関しても、前回の「Patrick Vegee」より更に音数が多くなっているように聴こえる。「Patrick Vegee」のリリース以降、わたしはUNISON SQUARE GARDENのライブに2公演参加したが、生で観てみるとその実感はやはり間違ってないと言える。わたしが生でライブを観たのは「Spring Spring Spring」と「CIDER ROAD」という、どちらも昔の公演とセトリを同じくしたリバイバルツアーであったので最新の楽曲群は披露していない。だが、当時の映像を収録した円盤を何度も再生して音を覚えているくらいになってしまった身としては、ドラムひとつで表現する幅が、当然ながら当時より多彩になったと思う。

楽曲によって色や表情を変える彼のドラムは、UNISON SQUARE GARDENの礎となり無くてはならない存在であることを、この「Nhil Pip Viper」でも十分すぎるくらいに感じ取れた。

鈴木貴雄…めちゃくちゃ趣味が多い(イメージがある)のにいつどうやって練習してるんだ…?いつまでもその素敵なドラムプレイを聴かせてください…

 

 

 CDに付属されている歌詞カードを見てみると、ユニゾンのファンならニヤリとするようなワードが散りばめられていることに気がつくことができる。今までに発表している楽曲の歌詞がいたるところに登場し、それがまた違う楽曲として活きているのだ。

田淵智也の詞で度々登場する言葉はいくつか観測されるが、これまでの歌詞をふんだんに散りばめるなんて「プログラムcontinued」「プログラムcontinued-15th style-」くらいでしか聴いた事がなかったから、彼の手法としては珍しいと感じた。だが、「Nhil Pip Viper」はもしかするとこの時代が来なければ制作されなかった楽曲かもしれない。

 

例えば、楽曲の2番ではこんなワードが音楽を彩る。

 

蓋然性合理主義なんてガキの遊びだわ

さっさとお家に帰れ!

 

 蓋然性合理主義…といえば、みなさんご存知、UNISON SQUARE GARDENの代表曲とされる「シュガーソングとビターステップ」の歌詞である。バンドのことはよく知らなくてもこの楽曲は知ってるよ~という人、結構多いのではないだろうか。実際わたしも、周りの人にユニゾンを紹介する時はこの「シュガーソングとビターステップ」か「オリオンをなぞる」を例に取っている。UNISON SQUARE GARDENの持つ一種の“盾”のような気がする。

 そんな“盾”を一蹴してぶっ壊していくようなNihil Pip Viperの詞は、直接的ではないが「UNISON SQUARE GARDENシュガーソングとビターステップだけじゃないんだぞ」と見せつけられているように思える。

 

2015年の「シュガーソングとビターステップ」リリース当時のインタビューでは、

田淵:元々、2015年は7月に出す企画アルバム(「DUGOUT ACCIDENT」)に向けてまず頑張ろうっていう話をしてたんですよね。でも新年明けてすぐかな?マネージャーから連絡きて、ディレクターがアニメの話を持ってきてくれたって。〈え、今月中に曲出ししなきゃいけないの?マジか!?〉って感じで、急遽シングル作ることになって。で、書き下ろしたのがこの曲(「シュガーソングとビターステップ」)で。

 

田淵:それでこそ『CIDER ROAD』以降からはどんな曲を作ればいいのかわかってきていて。特に歌詞の部分が大きいと思うけど、〈売れる為にこうしなきゃ〉みたいなこともあんまり言われることがなくなったし、そのストレスは全然ないから。それはほんとにラッキーというか。逆に言えば、レコード会社の人たちには〈全然売れそうな曲を作ってくれない〉っていうストレスがあるのかもしれないですけど(笑)

-「音楽と人」2015年6月号より

 このインタビューを読む限り、「シュガーソングとビターステップ」は、UNISON SQUARE GARDENが売れる為に作った楽曲ではないことがお分かり頂けると思う。わたしは「シュガーソングとビターステップ」が発売された当時はUNISON SQUARE GARDENのユの字も知らなかったので、インタビューから読み取ったくらいの知識で憶測にはなってしまうのだが、田淵智也がいつも通りに“自分の聴きたい音楽=ユニゾンのファンが聴きたい音楽”を書いてリリースしたら、アニメのタイアップ効果も相まってヒットしちゃった…という流れになる。

誰もが知っている定番曲を今回リリースの「Nhil Pip Viper」まで引っ張り出してきて、歌詞だけではなく(聴き取れる範囲だと)ドラムも「シュガーソングとビターステップ」の前奏と同じリズムにすることによって、意識しなくても耳に馴染むような作りとなっている。

シュガーソングとビターステップだけじゃないUNISON SQUARE GARDENを見てくれ”、“ライブに来てほしい”、“ロックバンドは生きてる”と、言葉にはしないながらも証明しているような、そんな気がしてならないのだ。

 

 

そして、UNISON SQUARE GARDENは現実を、今の時代を見るだけではなく、音楽へのスポットライトを当てているようにも感じ取れた。

2019年10月リリースのシングル「Phantom Joke」ではシングルとしては珍しくドラムが目立つ作りをしていたと感じているし、2020年9月リリースのアルバム「Patrick Vegee」のトップを飾る「Hatch I Need」はベースのイントロから始まる。今作「Nihil Pip Viper」は、斎藤と田淵が出演していたラジオ番組にて「ギター頑張りました!!!」と語っていたように(※ギターのことを熱心に語っていたのは何故か斎藤ではなく田淵だったと思うが)、ギターの鳴りが普段の楽曲よりも響いている気がする。ここ最近の彼らの楽曲はドラム→ベース→ギターというように、聴きようによっては主人公となる楽器が存在する。わたしが彼らのファンになってからの楽曲だけにはなるが、先述したように 「Phantom Joke」以降からこのことが意識されているように思えることから、UNISON SQUARE GARDENはいくら時代が変わっていこうが、軸のブレが全くないと思われるのだ。

 

 

 

 ラスサビ前の“観念して欲しい”という歌詞について。

田淵がわーすたという女性アイドルグループに提供した「清濁合わせていただくにゃー」という楽曲でも同じく“観念しろ!”というワードが登場するが、命令形/命令形じゃないか、そして歌い手によって、リスナー側の抱くイメージは変わってくる。“観念”の意味としては“覚悟”であるが、UNISON SQUARE GARDENでは“覚悟して欲しい”・わーすたでは“覚悟しろ!”と、若干の意味の違いが出てくる。「女性アイドルグループに歌ってもらうならこれ、斎藤くんならこれ」と、言葉選びの塩梅を絶妙に変えているところに田淵智也の歌詞へのこだわりが伺える。

 

以前、わたしはUNISON SQUARE GARDEN冠番組であった『機材車ラジオ』にて、田淵宛てに「田淵さんは楽曲を制作する際、その楽曲を提供する方によって雰囲気や言い回し、メロディーへの乗せ方を変えたりしているのでしょうか?例えば、斎藤さんならこういうもの、声優さんならまた違うもの、といった風にです。」と、『歌い手によって楽曲の創り方を変えているのか』という旨のメールを送り、運良く採用されたことがある。

その時の答えとして、田淵は以下のように語っていた。

言い回しはそうですね、斎藤くんが言ってグッとくるものと声優さんが言ってグッとくるものとは違うので~、これは『なんとなく』で片づけた方がよいかなと思っています。自分の中の基準に沿ってやってるだけなので~…『斎藤くんならこうだよね』っていうのを書いてるだけなので~、そこに言語化できる学術的なものがあっても説明しない方がいいかもしれないな。

この回のラジオではあまり明確にはしていなかったが、わたしは田淵智也のそういった、誰にも言わないけど自分の中で決めている“こだわり”が好きなのだ。

 

 

 

「Nihil Pip Viper」は、UNISON SQUARE GARDENがこの夏に結成17周年を迎え、18年目に突入するにあたってのスタートダッシュを切るに相応しい1曲だ。また、来たる2022年にはアニメ「TIGER&BUNNY」の続編も控えている。UNISON SQUARE GARDENは前作・劇場版とともに主題歌を担当していることから、続編も同じくタイアップされるのではと期待が膨らむ。

 

そんな中で発表されたこの「Nihil Pip Viper」は、こんな世の中でも活発にバンド活動を続けることの証明と、アニメタイアップ前の一区切りとして、非常に“バンドらしい楽曲”となっていると感じた。タイアップの無いシングルリリースは久しぶりであるし、お題や制限がない中での楽曲はやはり音も詞も、飛び抜けて自由。再生ボタンを押した瞬間から、ライブで演奏された時の風景が脳内に浮かんだ。「Nihil Pip Viper」は、通常運転の“UNISON SQUARE GARDENらしさ”がふんだんに詰まっているのだ。

 

 

 UNISON SQUARE GARDENはいつもこうやって「たのしい」や「驚き」を創造していく。わたしが他のことに気を取られていても、いつの間にか手を引っ張って連れ出してくれる。大切なことを思い出させてくれて、どうもありがとう。

「バンドはいつだって生きてる」「どんな状況だとしても工夫してライブはやっていく」と、ユニゾンのメンバーはどこにいたって口を揃えて言う。

 

“あーレディージェントルメンも仲良しこよしでは断じてないですので気安く喋るな”

運命共同体ってオーバーオーバー過ぎるので

耳からスパゲッティで肘で茶沸かすわ”

“Nhil Pip Viper!逃げ切れるのかな

締めつけてやるぜ!”

 

逃げ切れなくてもいい。

その音と声で存分締めつけてくれ、UNISON SQUARE GARDEN

 

バンドのスタンスを一切変えない彼らに、わたしはこれからもついていく所存だ。末永くよろしく。