音旅

文章の世界の住人。主に音楽のお話。

【Ninth Pencil】「カオスが極まる」を多角的に捉える

 

●この記事は、ナツさん(@unfinisheddaisy)主催「Ninth Pencil」の4曲目、2024年4月4日(木)の担当記事となっております。企画概要の詳細は以下の記事よりご覧ください。

また、UNISON SQUARE GARDENのバンドメンバーのお名前について、この記事では敬称略とさせて頂くことをご了承頂きたい。

01.数字で見る「カオスが極まる」

【動機】

わたしは2019年にUNISON SQUARE GARDEN(以下“ユニゾン”)が結成15周年を迎えた年に本格的に彼らにハマりここにまで至っているが、ここ数年…特に「カオスが極まる」がリリースされてからはライブのチケットが取りづらくなったのではないかと感じた(体感的な話なので実証はない)。家族とライブに行きたいと考えていた際は有難いことに重複したチケットを譲ってもらったこともあり、バンドがひとつの節目である結成15周年イヤーを迎えた以降で「カオスが極まる」が最も有名な楽曲になったのでは?と個人的には思っていたりする。そして「カオスが極まる」がユニゾンにとっても1つのターニングポイントになったのではないかと考えた。

 

【研究結果】

まずは、ミュージックビデオの再生回数について調査を行った。

 

●MV再生回数

「カオスが極まる」

MV公開日2022/10/26→執筆日2024/03/09

724万7715回÷500日

1日あたり約1万4495回再生

これだけだと再生数がどれくらい多いのかよく分からないので、同じくUNISON SQUARE GARDENのシングル+アニメ主題歌となった楽曲にて比較対象をいくつか用意した。以下も併せてご覧頂きたい。

「kaleido proud fiesta」

MV公開日2022/04/16→執筆日2024/03/09

226万6488回÷691日

1日あたり約3280回再生

「いけないfool logic」

www.youtube.com

MV公開日2023/10/03→執筆日2024/03/09

129万4690回÷158日

1日あたり約8194回再生

※こちらはシングルCDの早期購入特典として、購入者がYouTubeでの公開よりも先にミュージックビデオを閲覧可能なシリアルコードを封入していた。シリアルで観た回数は含まれないので、もし加算が出来るなら再生回数はもっとあるのではないかと考えている。

シュガーソングとビターステップ

www.youtube.com

MV公開日2020/05/14→執筆日2024/03/09

3218万5271回÷1395日

1日あたり約2万3071回再生

※この曲に関しては2019年の結成15周年イヤー記念に再公開されたものを上記リンクでサンプリングしたので、元々公開されていたもの(おそらくshort ver.)も合わせて累計で数えるとするならばかなりの再生回数になると思う。

ニゾンのことは知らなくても音楽好き&アニソン好きが誰もが一度は耳にしたことはあるだろう「シュガーソングとビターステップ」を、2022年リリースの「カオスが極まる」が超えることは流石に難しかったか…と予想通りではあった。ただ、近年のシングル曲の中でも群を抜いて再生回数が多いのは明らかだ。「カオスが極まる」、バケモンである。

 

次に、同アルバムに収録され、どちらも「アニメ主題歌」という共通項がある2曲の比較を行う。「Ninth Peel」というアルバムの枠に入ってはいるが、シングルとしてリリースしたCDの売上を「カオスが極まる」と「kaleido proud fiesta」で見ていきたい。

●シングルCD売上

「カオスが極まる」

発売日2022/10/19→集計日2024/03/09

→507日

累計2万5260枚→1日あたり約50枚の売上

「kaleido proud fiesta」

発売日2022/04/13→集計日2024/03/09

→696日

累計2万8695枚→1日あたり約41枚の売上

CDがたくさん売れる時代ではないのでこちらのデータはあまり指標にはならないかもしれないが、「Kaleido proud fiesta」よりも「カオスが極まる」の方が若干売上枚数が多いということが分かる。ついでに単曲累計ダウンロード数も調査しようと思ったのだが、ダウンロードはダウンロードで媒体が多数ある上、ストリーミング媒体も加算したかったがSpotifyApple Musicなど媒体別の数値が見つけられなかったため割愛させて頂く。

また、「カオスが極まる」のアニメーションつきのミュージックビデオに関しては2024年3月23日時点で再生回数が975万回を超えている(わたしがこの記事を執筆している2024年3月に観測した中では、1週間で10万回ほど再生数が伸びていた)。コメント欄にはユニゾンファン、アニメのファンだけでなく海外の言語も見受けられることから、この楽曲が国内外問わず注目されているのが十分にお分かり頂けると思う。

 

02.「ブルーロック」との親和性

【動機】

UNISON SQUARE GARDENはこれまで幾度となくアニメの主題歌(時にはドラマの主題歌)を手掛けてきた。この楽曲はアニメ「ブルーロック」のオープニング主題歌として作られたので、ユニゾンの作るブルーロックとはどういう形となっているのか、またユニゾンがブルーロックをどこまで掘り下げているのか、解像度を改めて感じたい。

 

【研究結果】

ここで「ブルーロック」が何たるか、アニメ公式サイトのイントロダクションを引用する。

世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない。

日本をW杯優勝に導くストライカーを育てるため、日本フットボール連合はある計画を立ち上げる。

その名も、“ブルーロック(青い監獄)”プロジェクト。

集められたのは300人の高校生。しかも、全員FW(フォワード)。299人のサッカー生命を犠牲に誕生する、日本サッカーに革命を起こすストライカーとは?

今、史上最もアツく最もイカれたサッカーアニメが開幕する。

これだけだと初見の方はさっぱり内容が見えてこない可能性があるので補足すると、ブルーロックという牢獄のような練習場にサッカーに取り組む高校生300人が集められ、それぞれが強制的にライバルとなる。「負ければ一生サッカーのW杯に出場することが叶わない」が、「勝ち進めばW杯に出場することができる」というかなりのハイリスク・ハイリターンな事柄を背負いなからも、主人公の潔世一(いさぎよいち)を始め、様々なキャラクターたちがお互いに切磋琢磨しながら成長していく…といったストーリーである。牢獄のような練習場…と記載したが、アニメ内で時々挟まれる高校生という年齢ならではの会話の楽しさや面白さ、別途スピンオフとして制作されているショートアニメもブルーロックの魅力の1つで、バチバチにサッカーでバトルしているところとはまた違う、キャラクターのかわいらしい姿を垣間見ることができる。

わたし自身も数年ぶりにどハマリしたレベルで大好きなアニメ作品であり、栗色と黄色いメッシュ髪が特徴のメインキャラクター、蜂楽廻(ばちらめぐる)のグッズを見つけると思わず購入しお持ち帰りしてしまうほどに愛情を注いでいる。

そんなアニメの1クール目(2022年10月〜12月放送分)の主題歌として起用されたのが「カオスが極まる」である。大抵のバンドならアニメに寄り添うところを、ユニゾンはアニメの内容を丸々汲み取って象徴するような詞を所狭しと並べている。その例えとして、1番のサビ部分を引用する。

楽園は近いぞ

ぶちかましてくれ 見たことがなけりゃないほどドラマチックだ

やばすぎんだろ カオス極まる 息もできないくらい

忘れないでくれ 運命論は無駄だ あがけるだけあがいたらいい

邪魔だ、すっこんでろ 着地はもうどうでもいい 君はどうだ?

 

かつてないデッドヒート

サッカーの絡んだアニメなので躍動感のある強気な歌詞に、「敗北すれば後がない」というブルーロックの特性を“デッドヒート”と表現している。そして、斎藤の声は声域としては高い部類に分類される。いわゆるハイトーンボイスと言われており、今ではそこまで珍しいボーカルの声域ではないと思うが、バンド結成当初の約20年前はおそらく時代の先駆けだったはずだ。そんな彼の歌声は、時に子守唄のように安心させてくれるような落ち着く声をしているのだが、「カオスが極まる」で聴こえる声はクールで、イメージとしては鋭利な刃物のよう。だからこそ「カオスが極まる」の歌詞がブルーロックと相まって、わたしたちに突き刺さるのだ。

 

03.この曲における「UNISON SQUARE GARDEN」の要素

UNISON SQUARE GARDENの得意技として、「アニメ主題歌としてリリースする場合は自分たちのバンドらしさや美学を楽曲の2番以降に入れ込む」というのがある。例えばアニメ「ボールルームへようこそ」にて、2曲あるうちの主題歌の1曲目として田淵が書き下ろした「10%roll,10%romance」ではこんな歌詞がある。

テイクミーアウト!

照れながら手を握ったら

僥倖なリズムをお目にかけましょう

君がどんな風に世界と踊るのか

もったいないからちょっとずつ教えて欲しいんだ

テイクミーアウト! 110%のシンパシー

リンクしたってしばらく内緒にしよう

だってこんな君を近くで見れるのは

有史以来僕だけかも ねえ

1sec でコンタクト

2sec そしてcheck my toe

3sec お手をどうぞ、right!

ありえない動揺で足元がおぼつかないなら

興奮を同じ数ぶつけて消しちゃおう

君がどんなフレームに僕を入れるのか 知りたいけど4年ぐらいは後でもいいか

焦燥でこの呼吸を汚しちゃっても

eyes to eyes もう一度やってみよう、you're sweet!

だってこんな君を近くで見れるのは 有史以来僕だけかも

ボールルームへようこそ」は社交ダンスをテーマとした作品なので、踊る動作が歌詞へ反映されているのに加え、アニメサイズでは流れない2番では作品の内容とは直接関係のない「4年後」という具体的な数字が登場する。田淵智也がユニゾンの楽曲内に幾度となく登場させ、彼がお得意とする「数字に関連する歌詞」だ。

また、同アニメ2曲目の主題歌となる「Invisible Sensation」ではこんな詞がある。

高らかに 空気空気 両手に掴んで

咲き誇れ美しい人よ

そのままペースアップして、Invisible Sensation

大胆なモーションに終始して face to face

どうしても消えないままの残酷時計は 真実を指してるから厳しくも見えるだろう

だけどいつか 誇れるくらいには

人生はよくできてる だから、生きてほしい!

わたし自身はユニゾンがタイアップをしていたとのことで「ボールルームへようこそ」を観始めたのだが、1番で作品の内容について言及し2番でバンドのことについて(またはバンドのファンに向けて)音を奏でていることが多いように思う。そのバランスがいつも心地良く、聴きながら見つけるのも楽しい。

ただ「カオスが極まる」は上記楽曲とは違い、例外となる。ここまで解説しておいて何なんだと思った方については申し訳ない。歌詞については全体的にブルーロックの要素が強いので、演奏面で解説をしていこうと思う。まずは、他のシングル曲よりも圧倒的に聴こえやすい序盤のベースに注目したい。曲が進むにつれて雷のように轟くギターが重なる。そして、激しさが主を占めるドラム。更に同期音源を加えることにより、UNISON SQUARE GARDENの「カオスが極まる」として隙のない完璧さを作り出している。

 

有難いことに、この楽曲については鈴木の単独YouTubeチャンネルにてドラム譜面の解説動画がUPされている。個人的に鈴木の叩くドラムの譜面は世界一だと思っているので、是非ご覧頂きたい。

約14分とお手軽に観ることができるこちらの動画でも、そのドラムの激しさや凄さが画面越しに伝わってくる。

鈴木の他に、UNISON SQUARE GARDENとも何度か対バンするレベルで昔からの長い付き合いがあるバンド、BIGMAMAの現ドラマーであるBucket Banquet Bis(通称“ビスたん”)もこの楽曲の譜面を少し叩いたことがあるのだが…難易度が鬼すぎた結果を是非観てみてほしい。

余談だが、この演奏部分のことをわたしは頻繁に「ビスたんゾーン」と表したりしている。わたし自身、ビスたんも好きなドラマーではあるので、この2人が同じステージでドラムを叩いているところを観てみたいものだ。

 

04.ライブでのセットリストの位置について

さて、「カオスが極まる」について様々な見解を述べてきたが、こちらの段落では「カオスが極まる」がUNISON SQUARE GARDENのセットリストにどのような影響をもたらしているのか、どのようにライブで使われているのかを例を挙げながら紹介していく。

①フェス出演時

◎2023年 FM802主催「RADIO CRYZY」

01.いけないfool logic

02.世界はファンシー

03.カオスが極まる

04.kid,I like quartet

05.Invisible Sensation

06.シュガーソングとビターステップ

※小休憩&MC

07.101回目のプロローグ

08.オリオンをなぞる

●RADIO CRYZY…通称レディクレは、年末にインテックス大阪という会場(2020年は京セラドーム大阪)で開催され、多くの音楽好きが集まっている大規模なフェスだ。ユニゾンはワンマンツアーを全国各地で開催しているが、並行してフェスに出演する機会も数多くある。そしてフェスへの出演は、ユニゾンのファンだけでなく、ユニゾンのことを気になっているライト層や、他のバンドのファンの方に目撃されることとなる。だからこそ「こんなバンドです」と自己紹介するようなセットリストにするのかと思いきや…2023年のレディクレはかなり攻撃性の高い曲順に仕上がったように思える。ちなみにこの年は有難いことにわたしも参戦したのだが、同期音のない「世界はファンシー」から、同期音のある「カオスが極まる」の見事な繋ぎに驚いたのをよく覚えている。

 

②ワンマンツアー開催時

◎2022年 「fiesta in chaos」

(中略)

10.フィクションフリースクライシス

11.Hatch I need

12.流れ星を撃ち落せ〜ドラムソロ

13.カオスが極まる

※小休憩

14.春が来てぼくら

15.シュガーソングとビターステップ

(中略)

◎2023年 「Ninth Peel Next」

(中略)

08.アンチ・トレンディ・クラブ

09.きみのもとへ

10.いけないfool logic

11.カオスが極まる

※小休憩

12.もう君に会えない

13.夏影テールライト

(中略)

●2022年のツアー「fiesta in chaos」は「カオスが極まる」がリリースされた直後の同年10月から始まったツアーということで、メインであるこの楽曲の置き場所がポイントになったのではないかと見受けられる。「フィクションフリースクライシス」「Hatch I need」「流れ星を撃ち落せ」と激しく盛り上がる楽曲を並べ、「流れ星を撃ち落せ」の中盤〜終盤では鈴木のドラムソロを挟んでいた。そうして間髪なく「カオスが極まる」に続けるというとんでもない流れが完成していた。2023年のツアー「Ninth Peel Next」は、アルバム収録曲に「カオスが極まる」も含まれるアルバムツアーであり、「Ninth Peel」を引っ提げては2周目のツアーとなる。手拍子が起こり観客が一気に盛り上がる「きみのもとへ」に続き、最新シングル「いけないfool logic」で新しくユニゾンのファンになった人でも楽しめる流れを作った後に「カオスが極まる」で畳みかけるというわけだ。

「カオスが極まる」はフェス出演でもワンマンライブでも、ライブのセットリストにおける1つのピースとして良い役目を果たしていることがお分かり頂けただろうか。

 

05.最後に

UNISON SQUARE GARDENは年々その技術や音楽がパワーアップしていて、何度彼らの楽曲を聴いても、何度ライブに足を運んでも飽きないバンドだと思うが、「カオスが極まる」はユニゾンにとって1つの武器となったに違いないとわたしは考えている。そんな本楽曲が今後、バンドにとってどのような立ち位置となっていくのか、今後とも末永く見守っていきたい。

 

2024年4月12日追記

全ての記事が出揃ったので、ここにトレイラーのリンクを添付する。