音旅

文章の世界の住人。主に音楽のお話。

UNISON SQUARE GARDEN「いけないfool logic」ディスクレビュー

 ディスクレビューと銘打って文章を書くのはいつぶりだろうか。重かった筆を取るきっかけとなる音楽を奏でてくれたのは、UNISON SQUARE GARDENだった。

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(わたしの大好きなパイロットベアちゃんとパシャリ)

今回の記事はUNISON SQUARE GARDENがリリースしたシングルより、表題曲の「いけないfool logic」とB面曲の「あまりに写実的な」についてレビューを行う。完全中身バレ・歌詞バレ等が有る為、お読みの際はご注意を。

いけないfool logic

 世界中を見渡して数えるとすると何億曲と音楽が溢れているはずなのに、UNISON SQUARE GARDENはまた新しい音楽を持ってきた。ユニゾン以外にも多くのアーティストや声優に楽曲提供を手掛ける田淵智也の手に掛かれば、どんな音楽だって魔法のように聞こえてしまう。彼の魔法が最も発揮されるのはUNISON SQUARE GARDENというバンドを舞台としている時だとわたしは考える。勿論、この「いけないfool logic」もアニメ主題歌として申し分ない程の高い完成度なのだが、それと同時にUNISON SQUARE GARDENらしさも爆発している。いつもに増して田淵節が炸裂しているように聴こえたのだが、わたしが考えるに彼はおそらく斎藤宏介さんの別バンドの楽曲もよく聴いているんだと思う。聴いた上で「まだまだ斎藤宏介はこんなことが出来るんだ」ということを新しく発見して「いけないfool logic」に入れ込んできたのではないだろうか。例えばこちらの歌詞。

純粋でも 順調でも

順風でも なんだかんだ

全てがつまびらかとかありえないぜ

過去のUNISON SQUARE GARDENの歌詞でここまで韻を踏むことを意識したものがあったかと言えば、わたしが聴いている限りではあまりなかったかもと感じた。

また、2020年に斎藤宏介さんがゲストで出演していたラジオにてわたしの送ったメールが採用されたことがあり、今回の記事に参考になりそうな内容だったので引用させて頂く。

「(コロナ禍の)ステイホーム期間に始めたことはありますか?」と質問したところ、こんな答えが返ってきた(※この時の音源等はいま所持していないので発言はニュアンス程度)。

ラッパーとしての活動を始めました。出来たラップをBIGMAMAの金井政人に送りつけたりしてます(笑)

-2020/05/20 FM802「UPBEAT!」より

この時より遥かに、音として韻を踏むことが上手くなった斎藤宏介さんのラップを上手く音楽として組み込んだ田淵智也さんはやはり天才だと思うし、誰よりも“ギター&ボーカル”を務める斎藤さんのことを長く見ているだけあるな、と感じた。

 

 「いけないfool logic」は、これまでのユニゾンの曲と比較すると群を抜いてハッピーソングだということを一音目が鳴った瞬間から感じ取った。UNISON SQUARE GARDENの楽曲の中で「多幸感」を感じるものといえば「君の瞳に恋してない」や「kaleido proud fiesta」をわたしは挙げるのだが、この曲に関してはそれとは少し違う感触だった。先述したように、この曲のことはカタカナで「ハッピー」と表したい。わたし自身が最近、海外発のミュージカルを観たことも影響しているとは思うが「いけないfool logic」は外国のミュージカルを持ってきてそのまま曲に変換したような可憐さがあるように思う。ものすごく晴天の青空の下で、ロングスカートを靡かせ踊りながら聴きたい。この曲の面白いところはそれだけではない。2番Bメロの転調部分に関して、一聴しただけでは頭の中に「?」マークがずらりと並んだ。わたしはてっきり、ユニゾンのこれまでの傾向…例えば「春が来てぼくら」のように2番が始まった途端に曲調を変えてくると思い込んでいたので、こんなサプライズみたいなことが待っているとはつゆ知らず。本当にびっくりして、初めて聴いた際は「え?」と声が出てしまった。この曲は先述したようにアニメ主題歌としてリリースされたのだが、地上波で放映されるOP映像は基本的に90秒(1分30秒)と限られた時間だ。アニメサイズでは楽曲の2番が流れないことをいいことに、田淵さんはとにかく遊ぶ遊ぶ。full ver.だけのお楽しみを秘めている楽曲を作ってしまうUNISON SQUARE GARDENが、わたしは本当に大好きだ。

 

 わたしはUNISON SQUARE GARDENのドラマーの鈴木貴雄さんのオタクなので、やはり毎度注目してしまうのはそのドラムの音である。「いけないfool logic」を初めて耳に入れた時は、表題曲の割にはあまりドラムが目立っていないのでは?と感じたけれど、何度も繰り返し聴いているうちにそういったドラムの使い方をすることも時には大事で、正解なんだと思えるようになった。シングル曲では「Phantom Joke」や「カオスが極まる」にて彼のドラムがよく聴こえるのだが、この「いけないfool logic」では細かなアレンジを多数入れつつも、あくまで料理で言う“皿”のような役目を果たしている(彼が結成15周年記念の舞洲ライブで仰っていたこの例えが大好きなので言葉としてお借りした)。わたしは、おそらく貴雄さんが同期音を鳴らしてから演奏をスタートさせるのではと予想しているのだが、先述したように細かなアレンジに加え2番の転調部分の始まりでスティックを鳴らす場面や元のメロディーに戻る際のリズムの取り方の難易度がかなり高そうだと感じている。その辺りをどう表現していくのか、相当練習しないとひとつの音で全て狂ってしまう可能性を孕んでいる楽曲のように思う。観る側としてもその難易度の解剖がしたいので、ツアーの際は気合を入れて行こうと決めた。

 

 まだ公式YouTubeに出ていない機密事項なので語るのは少しだけにしておくが、MVでは3人がかなり遊んでいたので観ていてとても楽しい気持ちになる。楽曲の2番には、個人的に観てみたかった「3人が○○しているところ」という場面も入っていて大満足の内容だった。曲といいMVといい、アニメ放送スタートと共に公開されると更に注目度が高くなりそうだ。

 

 

あまりに写実的な

 「B面曲はCDを買った人だけが聴ける(≒サブスク解禁はしない)」というスタンスをユニゾンは取っているが、こんなにもファンが欲しているものを提供してくるとは思わなかった、というのが第一印象。UNISON SQUARE GARDENのことが好きで、ユニゾンのファンクラブに入っている物好きにぶっ刺さりそうな曲だと思った。わたしがそうだから。

 「あまりに写実的な」は、初めて聴いたはずなのに不思議と懐かしさを感じた。それは、今回ユニゾンの全楽曲で初めて作曲・編曲が「UNISON SQUARE GARDEN」という連名での作品だからか、これまでのユニゾンの良さが詰まっている仕上がりになっている風に感じている。

ぜんまい仕掛けのおもちゃを巻くかのような、耳に残るフレーズから始まる今楽曲。わたしはリリース時に公開されたナタリーのインタビューを読んでからこの楽曲を聴いたのだが、確かに貴雄さんが好きそうなイントロだな、という印象を受けた。全体的に「いけないfool logic」とは打って変わって、田淵智也の書く詞を聴かせるためのシンプルなドラム譜面だと思う。既存曲だと「センチメンタルピリオド」や「流星行路」を彷彿とさせるような、ユニゾンの初期の音に似ているようだった。

 

 ループして何回目かで歌詞カードを見ながら聴いていたら詞が沁みたのかちょっと泣きそうになってしまったのだけど、その理由を考えながら聴いていたら分かった。この曲は「101回目のプロローグ」に似ているのだと。自分の人生なのに、自分が選んだ道なのにも関わらず人生に押し潰されそうになった時に丁度、アルバム「Patrick Vegee」を引っ提げたツアーが始まって、自分の勇気だけを持って遊びに行ったのだ。晴れた神戸公演も、土砂降りの京都公演もわたしの救いになっていたことをこの「あまりに写実的な」を聴いて思い出した。そういった意味で、この曲は一聴しただけでもかなり好きな部類に入ってしまったのだった。かなり久しぶりに斎藤さんの歌わない、語りだけの場面があることにも驚いた。ライブでの披露時はどう演奏と合わせるのか、非常に楽しみにしている。

 

 UNISON SQUARE GARDENにしか似合わない、彼らにしかハマらない言葉はあると思っている。例えばこんな歌詞。

一つの願いが途絶えたくらいで

命が終わるかよ 甘えるな

あまりにも写実的なあれこれ

心はモノクロにしちゃダメだよ

「その手は差し出さない」「差し出された手は噛みちぎるけど」と奏でるUNISON SQUARE GARDENだが、今回の「あまりに写実的な」では辛辣な言葉を並べつつも、最終的にはリスナーが立ち上がるためのヒントを与えてくれている。そうして、“写実的”という言葉の意味を調べてみると、こんな解説が載っている。

〘形動〙 事実をありのままうつし出そうとする傾向のあるさま。リアリスティック。

(写実的-コトバンクより)

要約すると「自分の心にあまりリアリティ(現実)を映し出すな」という意味だろうか、わたしはそう解釈した。だから、「あまりに写実的な」はわたしの救い。救いと言うには烏滸がましすぎるな、勝手に救われたい。

 

 これは本当に個人的な想像でしかないが、この「あまりに写実的な」はもしかしたら貴雄さんの曲かもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ彼はある時「世の中に絶望しながら生きている」と語っていたことがあるから聴きながら絶妙なラインなのかもと勝手に想像しつつも、曲中には何となく彼のカラーがあるような気がする。

あまりにも写実的なプロビデンス

振られた賽の目が幸せなはずないか

自暴自棄じゃ味気ない

とすれば事の次第は 何を選ぶかで

決まってしまうよね

じゃあ世界は平穏です

平穏です

例えそうじゃなかったとしても、この曲を携えて今後活動していくUNISON SQUARE GARDENは、もう敵なしだと思っている。寄り添いつつも、近くなりすぎない距離感の塩梅具合が流石なのだ。

 

「いけないfool logic」「あまりに写実的な」を携えて、アルバム「Ninth Peel」の2周目となるツアーが始まる。年が明けるとUNISON SQUARE GARDENの結成20周年イヤーもスタートする。どんな計画が始まるのだろうか、そのことをを想像するだけで身体が震えてしまう。行き着いた先には、何があるのだろうか。UNISON SQUARE GARDENの結成20周年のその先へ、わたしは彼らとともに向かう。