音旅

文章の世界の住人。主に音楽のお話。

踊る音に身を任せ、打てない球に多幸感を【Patrick Mojii】

●この記事は、ナツさん主催「Patrick Mojii」9月20日(3日目)の担当記事となっております。

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 昔から、わたしの家には所狭しとおもちゃが置いてあった。可愛らしいぬいぐるみや、リビングの床を走る小さな車など、幼い頃から様々なものに触れてきた。

 UNISON SQUARE GARDENの「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」を初めて聴いた時、イントロのレトロな音から直感的に「おもちゃ箱みたいな曲だな」と思ったのを覚えている。そうだな、こんな曲にも少しだけ似ているかも。

ニゾンの記事なのに突然アイドルアニメの楽曲を持ってきてしまった…好きなんです、この曲。

小学生の時に「アイカツ!」というアニメにドハマリしていたんだけど、とあるシーズンで挿入歌として流れたこの「マジカルタイム」という楽曲は、かなりポップでTHE・アイドル!という雰囲気である。1回聴いたら頭から離れてくれないメロディーラインと、ぽわぽわと跳ねるような音。「アイカツ!」の他の楽曲と比べると群を抜いて好きだったこともあり、今後の人生の音楽の好みをここで決めることとなった。じわじわと身体を蝕んで、否が応でも踊らせてくるような…UNISON SQUARE GARDENの「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」を初めて聴いた時も、これと同じような感想を抱いた。

正直、「ユニゾンらしくない」と思い最初はしっくりこなかった。けれど、ポップで軽快、それでいて踊りたくなるメロディに知らずしらずの間に虜になってしまったのだ。

 

さて、前置きが長くなってしまった。「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」のことを書くにあたって、先ずは田淵智也がインスパイアしたthrowcurve(読み:スロウカーヴ)というバンドについて少し触れておこうと思う。

おそらくは、UNISON SQUARE GARDENのファンの中でも年代的に元々知っている人はほぼほぼいなかったのかなと感じているが(わたしはユニゾンをきっかけに調べ始めた)、ユニゾンと同じく東京都 下北沢発のバンドである。

UNISON SQUARE GARDENの「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」は、このページの1番上に表示されている『リコール』より「表現は自由(that made me mad)」と、上から2つめに表示されている『ニューワールド・ハートビート』より「連れてって」の2曲をオマージュしたものと思われる。

 

わたしの主観ではあるが、CD音源で聴くのとライブで聴くのとでかなり感じ方が変わってくるのがこの曲の魅力。化ける…というより、パワーアップする、といった方が正確かもしれない。2021年の後半〜2022年初頭まで一気に走り抜け無事完走したUNISON SQUARE GARDENのツアー、「Patrick Vegee」にてこの曲も披露されたのだが、わたしはCD音源を聴く脳を用意していたのでイントロが流れ出した瞬間に「あれ、なんだっけこの曲…そうだスロウカーヴだ!」と思い出すことになった。このツアーは先日Blu-ray/DVDが発売されたので良ければCD音源とライブ音源の違いを確かめて頂きたい。

ライブでの「スロウカーヴ〜」はこのバンドの本髄を表しているかのような、“THE ロックバンド”の音がよく聴こえるのだ。鈴木貴雄が奏でるイントロのドラム音で目が醒め、続けて斎藤宏介の脳を突き刺すようなギターと田淵智也の身体が揺れるようなベースライン。ユニゾンの最近の楽曲にしては珍しく、イントロからドン!と3人が一気にスタートを切って、音楽の新鮮さを身体に流し込んでくれるような曲だとわたしは考えている。だからこそ、ライブで聴いた時に「なんかCD音源と違う!」と感じることになったのだと思う。

 

「直球です」 とか言うからフルスイングしたんだけど

意図も容易く すり抜ける

それ超ウケるって笑いながら地下室迷路を辿ろうか

野球を基盤とした歌詞に、ユニゾン節が鮮度そのままに乗っかる。歌詞だけ見たらへんてこで脈略のないように見えても、歌として完成すると不思議とハマるように出来ている。ぴったりとパズルがハマると開くような…まるでからくり箱のよう。

“地下室迷路”というフレーズは、UNISON SQUARE GARDENの楽曲の中でも「プログラムcontinued」の“秘密基地で会う約束をしよう”という歌詞を彷彿とさせる。窮屈そうに見える限られた空間が、彼らとわたし(リスナー)の待ちあわせ場所ってわけだ。“地下室迷路”、なんて素敵な響きなんだろう。

 

恋に短し愛に長し?って

君の覚悟を聞いてんの!

ほらツーストライク、 振りかぶられた

救世主は信じない

UNISON SQUARE GARDENって、どうしてこんなにも興味深いバンドなんだろう。音の作り方以前に、歌詞から難解さが溢れていて「なんだろう?」と知らずしらずのうちに惹き込まれてしまう。このサビの部分の、“恋に短し愛に長し”というフレーズは何度考え直しても答えが出ない。わたしは別の記事でアルバム「Patrick Vegee」のディスクレビューを書いたことがあるが、この楽曲のこのフレーズは文章にするのが難しかった記憶がある。おそらく答えなんて出さなくてもいいのかもしれないが、ユニゾンを数年間聴いて大人になってきた以上とりあえず一旦は歌詞の考察をしないと気が済まない。考えているうちに頭がこんがらがりそうになりながらも、元になった言葉を調べてみるとこんなページが出てきた。

“どっちつかずで中途半端なこと”。

“恋に短し愛に長し”の次に続くフレーズが、“君の覚悟を聞いてんの!”というところから少しこじつけかもしれないが『真摯に向き合うこと』を表現していると考えてみると、UNISON SQUARE GARDENが頻繁に伝えてくれる『ステージのユニゾンと君だけの空間』『演者 対 1人』のスタンスの欠片を感じることができる。なるほど、これはUNISON SQUARE GARDENにしか作れない曲だ。

 

個人的な話をすると、2022年は現時点でも色んなアーティストやバンドのライブ、フェスにも出掛けたが、CD音源とライブを観た時に印象がガラリと変わったのはUNISON SQUARE GARDENだけかもしれない。有り難いことに、2022年はユニゾンだけで7公演ものライブ(※これは現時点なので今後もう少し増える)に参戦したが、後にセットリストを手持ちの音源で聴き返しても、あの時聴いたライブの音の再現にはどうしたってならない。『生音には生音の良さがある』と一心に伝えてくれるような演奏…とでもいうのだろうか。言葉に表すのが難しいのだが、ユニゾンは“「楽しい」を全面に押し出しているバンドだから”というのが1番の理由になる気がしている。目を瞑って静かに耳を澄ませるもよし、音にノッて踊るも暴れるもよし。UNISON SQUARE GARDENのライブの楽しみ方は自由なのだ。

 どう迷って、どう道を辿ったとしても、結局は「UNISON SQUARE GARDENが1番だな」と思わせてくれる安心できる実家のようなバンドだし、冒頭に記したようなわたしの自宅とも空気感や情報量の多さが似ていたのかもしれない。アイドルアニメを観て、好きな楽曲の基盤がわたしの中に出来ていたからこそ、UNISON SQUARE GARDENのことや「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」のことを好きになれたのかもしれない。ロック音楽に見向きもしなかったわたしがここまでのめり込んだバンドはユニゾンが初めてだったから、これもなにかの縁だと思う。これからもわたしは勝手に彼らを追いかけていきたいし、この楽曲のような“変化球”を楽しみに生きていきたい。

 

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2022 9/30追記

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