音旅

文章の世界の住人。主に音楽のお話。

良き音楽を召し上がれ-あいみょん「おいしいパスタがあると聞いて」ディスクレビュー

●この記事はひいらぎちゃん(@h__x_nano)主催 2021年アドベントカレンダー企画 9日目の記事です🙋

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☆[感想]12/6担当 ろきちゃんへ

 SnowManさんの記事~!「曲はTVやラジオで何となく聴いたことあるけど、どんなグループなんやろ…?」と思っていたのでとってもたすかる……!「D.Dは『誰でも大好き』じゃないです」の下りでめっちゃ笑ったし、ジャニーズが演じるボイスドラマ(12分ある)ってなに!?!?ってなってます…気になり始めたかも…!

ろきちゃんの記事はこちら↓

企画の詳細はこちら↓

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ここから記事本編。

 

今や誰もが名前を聞いたことのあるアーティスト、“あいみょん”。先日メジャーデビュー5周年を迎えた彼女のリリース作品から、今回は2019年9月に発売された「おいしいパスタがあると聞いて」というアルバムを紹介したい(※「瞬間的シックスセンス」というアルバムも同じく好きだから迷ったけど、今回は最新のアルバムを選びました)。

 

 アルバムディスクレビューの前に…あいみょんさん、実はわたしと同じく兵庫県出身である(この記事を読んでいる方はもしかしたら聞いたことがあるかもしれないが)。あいみょんの他にも女王蜂やキュウソネコカミフレデリックなど、兵庫県から全国に広まったアーティストや芸能人は数多く存在する。あいみょんの出身地である西宮市には『西宮ガーデンズ』というお上品なショッピングモールがあるのだが、彼女がブレイクを果たした時にそのモール内のHMVでお祝いされていたのは今でも覚えている。うちの県のちょっとした自慢だ。

 

さて、ディスクレビューに移ろう。

(↑サブスクはこちら)

「おいしいパスタがあると聞いて」というアルバムは、先述した通り2020年の秋にリリースされた作品だが、その音楽は1年以上経った今でも音が色褪せることはない。中にはタイアップとして取り上げられた楽曲もあるから、耳に残っているものもあるかと思う。どうぞ召し上がっていってほしい。

 

1.「黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を」

 ギターって、いいですよね……

いきなり何の話?って思われるかもしれないけれど、この楽曲のイントロの話である。あいみょんの歌声は伸びがあり、女性アーティストとしては声が低い方に属するからバンドっぽいギターとの相性が良いのだ。

愛は全てを解決しない

金があれば何でもできるかもしれない

こんなフレーズから始まるアルバム最初の楽曲。インパクトを一瞬で残していくのがあいみょんの良さであり、強みだとわたしは思っている。女性シンガーならおそらく『共感を得やすい一般的な恋の歌』を歌いがちだと思うんだけど、その点であいみょんは共感なんて狙っていない。上記に書いたように、まずは何でもできそうな『愛』を否定していく。かっこいい………

そして、楽曲ラストはこんな歌詞で締められる。

余裕のある人はかっこいい

でも余裕のない人生は燃える

う~!かっこいい!!

『自分はこうしていきたい』と明確な宣言をしているわけではないのだけど、あいみょんがこの歌詞をさらりと言ってのけるところがめちゃくちゃ良い。まだ1曲目だけど絶賛しちゃった。

 

2.「ハルノヒ」

 劇場版「クレヨンしんちゃん」の主題歌でもあったし、音楽番組でも披露された回数は割と多い方だから知ってる方は知っているかも。

 

腰掛けたベンチで

僕らは何も見えない未来を誓い合った

 あいみょんは『日常に潜むしあわせ』を描くのが上手いと思う。他の人から見たらそこまで大層なことではなくても、『あいみょん』というフィルターを通すと一気に解像度が上がるような気がしている。言葉の組み合わせが巧いのだ。『ベンチ』だけど『愛を誓い合った』っていう歌詞、一見結びつかないような単語の組み合わせなのに上手くハマっているのが凄い。

個人的に、邦楽女性ソロアーティストの音楽の中で『結婚式で流したい楽曲』トップである。歌詞を見てほしい。

これからの展開をふたりで

飽きるまで過ごしてみるからね

最低限の愛を伝えながら

 愛を伝えるけど、それは『最低限』だけ。アルバム1曲目「黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を」から『愛』の解釈が変わらず、あいみょんらしくて好き。

 一般的に、パートナーとは『足りないところを補い合う関係性』という内容をよく歌われるし想像すると思うんだけど、あいみょんの書く詞は少し違う。

君の強さと僕の弱さをわけ合えば

どんな凄いことが起きるかな?

 『僕』が『君』に憧れを抱いている状態で、言葉にするのは難しいんだけど『相手への尊敬』みたいな解釈ができる。

楽曲中で『好き』などの恋愛らしいワードを詰めていないのに、穏やかな時間が流れる2人の情景が浮かんでくるのだ。

 

3.「シガレット」

 偏見だけど、誰かの性癖に刺さりそうな気がする。タイトルが「シガレット」だから、わたしはてっきりもう少し暗めの楽曲なのかと思ってたんだけど、全然ふわっふわな感じのかわいい楽曲でした。

出来損ない

出来そうもない

この歌詞と背景に流れる音楽、なんとなくふわふわ感を出してて好き。この楽曲を聴くと真面目なヒロインと、その子が煙草を吸う相手に惹かれていく様子が描かれていることが分かる。ヒロインちゃん=あいみょんが歌うメロディーラインのことだけど、『可愛すぎないかわいさ』があるから好きだと思える。

あの感触もあの声も

ふんわり落ちてく煙と

その苦笑いに手を振って

やっぱり落ち着く香りに

もう仕方なく身体を埋めるのです

 わたし自身は煙草のことをよくは思っていないんだけど、人によっては落ち着く匂い(=愛しい人の香り)として脳に焼きついているのだろう。愛しい人の匂いは安心材料だもんね。あいみょんの曲ってなんでこんなに情景が浮かぶんだろう…

 

4.「さよならの今日に」

 こちらは朝の情報番組「スッキリ」でタイアップされていた楽曲。前曲「シガレット」から一転、少し声のトーンを意図的に落として歌っているのが分かる。

切り捨てた何かで今があるなら

「もう一度」だなんてそんな我儘

言わないでおくけどな

この歌詞、100点すぎない?

時間は過ぎていくしやり直しは効かないものだ。当たり前のことなんだけど表現しづらいことを、彼女は簡単に詞として文字に起こしていく。だからあいみょんは『凄い』と言える。

この楽曲のように『少し薄暗い感じの色を感じる』音楽はわたしはあまり聴くタイプではないんだけど、あいみょんが歌っているというだけで「他とはちょっと違うな」と惹かれる。それくらいの才能が、彼女にはあると思うのだ。

 

5.「朝陽」

 これめっっっちゃすきです!!(急に音楽オタクがひょっこりした)

アルバム全体を聴くのは時間なくてちょっと…って思ってる人はこの「朝陽」だけでも聴いていってほしい。

テンポがゆっくりなイントロからぽんぽんと紡ぎ出される言葉たちと、楽曲としてサビへの導入が早いから飽きることなく聴くことができる。おすすめです。

楽器大好きオタクだからこんなことしか言えないけど、サビのベースが音楽に合わせてうねんうねん(?)と波打ってるのが好き。

愛されたい 愛してみたい

愛されて 愛してみたい

 同じ言葉の羅列のように見えるけど、ちょっとずつ意味が違ってくる。キャッチーなサビのテンポと韻を踏む言葉たちの聴き心地が良くてすごく好き。

 特にこことか、あいみょんがぽんぽんと歌うところ…

「終電逃して何のつもり?」って

聞かれた恥ずかしさ

期待してないなんて言えないし

というか分かってよ もう分かってよ

どうでもいいよもうどうでも

そうやっていっつも傷つけるんだ

どっかの誰かさんはそうやって また明日

 あまり明るい歌詞ではないのだけど、ここのメロディーラインからサビに入る流れで言葉をはめていくのがお見事すぎる。なかなかできることじゃないからぜひ味わってほしい。

 

6.「裸の心」

 こちらもドラマのタイアップとして、TVでよく流れていた。

そうなんだよな…「朝陽」からこの「裸の心」の流れだと『ひとりの女の子が恋愛のコマを進めてる物語』を音楽として摂取することができるんだよな……アルバム順が良すぎる。

 あまりにも有名な曲だし、わたしがここで解説するより聴いて個人の解釈をしてもらった方が嬉しいのだけど少しだけ。

この恋が実りますように

少しだけ 少しだけそう思わせて

今、私 恋をしている

裸の心 抱えて

 『恋が実りますように』はおおよそ使い回されたフレーズではあるんだけど、その後に『裸の心 抱えて』という歌詞があることによって『あいみょんらしさ』が加わっていると感じる。きっと『人間の素』のことをこう表現したんだろうけど、表現の仕方が独特すぎて感嘆するしかない。

 

7.「マシマロ」

 普段はロックバンドのオタクをしている身としてイントロから好きが溢れる。いつものあいみょんの歌声が中心になっている楽曲たちも大好きだが、楽器を基準としてあいみょんの声が流れ出すこの「マシマロ」みたいな楽曲も、彼女の世界観としてありなんだよな…

こんな幸せできすぎている

むしろ夢であれよ、と思う

やっぱり独特な目線で歌詞を紡ぐんだよなぁ…ロックな音楽に少しふんわりとした、お菓子のような歌詞は合わないと思われつつも『あいみょんなら』と気軽に聴くことが出来るのではないだろうか。「女性アーティストはあんまり聴かないなぁ…」とか、彼女の楽曲を頻繁に聴かないタイプの音楽好きにちょっとでも刺さってくれたら嬉しい。

 

8.「空の青さを知る人よ」

 楽曲と同名アニメ映画の主題歌を担っていた。好きー!!としか言えなくなる。わたしは主題歌だったアニメ映画の方はまだ拝見してないんだけど、とにかく歌詞が良くて毎回泣きそうになる。あいみょんって人生何周してるんだろう…

いつもいつもいつもいつも

君が君が君が君が

最初にいなくなってしまうの

 ここの部分、歌詞だけだと感じ取りにくいんだけど、音楽と合わせて聴くと『去っていってしまう君の姿』『写真を巡っていく』みたいな光景がわたしは浮かぶ。結構こころに来るものがある。

 話がちょっと逸れるんだけど、あいみょんのことを特集していた音楽バラエティ番組で『あいみょんの詞にアレンジをつける人も凄腕の方が多い』と聞いたことがある(具体的なお名前は存じ上げないのだけど…)。彼女はアレンジャーの方や音楽をミックスする方にも恵まれていて、この「空の青さを知る人よ」にももちろん言えることだけど『あいみょんの音楽を最大限生かしてくれる工夫』をして下さっていると感じる。いつもありがとうございます…

 

9.「真夏の夜の匂いがする」

 女性アーティストがこういう色気のある楽曲を歌うことにめっぽう弱い人間なので、毎回「はわわ…」という感情になってしまう。2Aで音が落ちるところ、めっちゃ好き。

 歌詞の面で言うならば…“快楽”という、女性歌手だったらあまり埋め込まないような単語が自然とハマっていくのもあいみょんの魅力なんじゃないかなと感じている。わたしが彼女の音楽を聴くに、あいみょんは『女性らしい歌』をガンガンに歌っていくタイプではない。そもそもの音楽のルーツが男性アーティストらしく(多分スピッツだったかな…そのあたりは詳しくないんだけど)、『僕』という一人称を使ってもアイドル目線にならない。

あいみょんが一躍有名になった「君はロックを聴かない」も男性目線の楽曲である。

(この記事を書くにあたって改めて聴いたんだけどやっぱりいい曲なんだよな……ギターの練習曲として何億回も聴いたけど、あいみょんの弾くギターのカッティングが素敵すぎることに今気づいた)

あいみょんはアップテンポでもミドルテンポでも、恋愛を歌として落とし込んだり形にする力がある人だと思う。「真夏の夜の匂いがする」は、大人向けの楽曲ではあるもののサビの歌詞はこんな感じ。

天国か 地獄か

分からない道を行こう

振り切って進んでいこう

簡単じゃないから

ハマっていくんだろう

恋も金もこの人生も

両極端に見えて「確かにそうなんだよな…」と思わせられる歌詞、サビへの導入、そして盛り上がる音楽…どれを取っても良い。わたしは、あいみょんがこういう楽曲を歌うのが特に好きかもしれない…もっと聴いてみたいかもしれない。

 

10.「ポプリの葉」

 彼女の歌声以外で音数が少ない分、歌詞が彫ったように浮いて聴こえる(褒めてる)。

似たようなことを先述したんたけど、あいみょんは『心情』を表す音楽を作るのが上手くて…

もう一度もう一度

あの日に戻ってやり直したいな

そしてこの香りとは結びつきたくなかった

結局忘れられなかった香りを抱いて

家に帰る

おそらく失恋した子の歌なんだけど、聴いてみると切ない感情よりも先に『あいみょんの表現の上手さ』が引き立っているように感じる。このアルバム2曲目「シガレット」の項目でも書いたんだけど、好きな人や愛しい人を『香り』に関連付けることに、他の女性アーティストとの違いを見せつけられる。バラードで音数が減ったとしても彼女の音楽が劣化することはない。むしろ輝いているようにすら思えるのだ。

 

11.「チカ」

きっとすぐ帰れない

あなたの為にもう尽くせないわ

笑って見過ごしたあなたのせいだわ

もしも二人の最後が今日だとしたなら

あと少し ほんの少しだけ

求めていて欲しかった、な。

この歌詞から、この楽曲の前曲に位置する「ポプリの葉」とアルバム順(物語の順番)は逆なんじゃ…?とわたしは思ったのだが、あえてこの順番にすることによって『吹っ切れた子』を描いているのではないか、という結論に至った。恋愛の波を描くのも彼女は得意としているのだろう、アルバムはあっという間に最後の曲「そんな風に生きている」へ続く。

 

12.「そんな風に生きている」

 楽曲の長さとしては短いけれど、アルバムの最後としてエピローグのような役割をしっかり担っている。音がゆらりゆらりと揺れているところ、ちょっと昭和歌謡感があってこれもこれで好き。あいみょんって実は何でも似合っちゃうんじゃないかな…

そんな可愛そうな目で私を見ないでいて

生きていく術は人それぞれ

だから 私はいつも風まかせ

そんな風に生きている

 サビの歌詞は『可哀想』を『可愛そう』と表記する。この一文からも彼女らしさを存分に感じることができるし、アルバムの最後として『新しい恋に向かう』『明るい未来』を感じさせる楽曲だ。「おいしいパスタがあると聞いて」の最後に相応しい音楽といえる。

 

最後に

 あいみょんといえば「マリーゴールド」や「君はロックを聴かない」など有名曲のイメージを持つと思うし、実際わたしもそうだったんだけど、この「おいしいパスタがあると聞いて」というアルバムを通して聴いてみると『有名曲だけじゃないあいみょん』の姿を観ることができる。個人的な思い出としては、中高生の頃の眠れない夜にあいみょんの楽曲をよく聴いていたものだけど、今では昼間のBGMとしてわたしの生活に活きている。

この記事で、少しでもあいみょんに興味を持ってくれたら嬉しい限り。

 

最後に宣伝なんだけど、良ければ最新リリースの「ハート」にも寄り道していってほしい。

こちらもドラマの主題歌としてTVやラジオでよく流れている楽曲。彼女が珍しくたくさん悩んでこだわり抜いたという歌詞に注目して、是非一聴あれ。

 

以上、あいみょんの「おいしいパスタがあると聞いて」+少しの宣伝ありの記事でした!

 

アドベントカレンダー、次の記事を担当するのはねむいちゃん(@lpl_nemui)です。ハロプロの話をしてくれるそうなのですが、わたしはその方面をあまり存じ上げてないのでめっちゃ楽しみにしております…!ハロプロさんはサブスクサービスで音楽配信がない(と思われる)のでどう紹介するのかな…?!とわくわくでいっぱいです。よろしくお願いします!

 

それではまた。